混声合唱組曲「筑後川」考

あひる会合唱団 テナー H.H

 

「筑後川」を練習で歌っていて、“”の言葉がかなり多く歌われていることに気が付いた。歌詞ページで確認してみると、「みなかみ」、「ダムにて」と「川の祭」の3曲に全部で9回登場している。ちなみに、主役の“”の登場回数を調べてみると、全部で19回である。主役が“”だから、関連する“”は、と思って調べてみると、たった3回しか登場していない。このことから、「筑後川」の詩において、“”が重要な概念になっていることが察せられる。そう思って“”の観点から「筑後川」の詩を見直してみると、いろいろ見えてきたので、以下に考察する。

 

まず、「筑後川」に出てくる“”を以下に列挙する

「みなかみ」:          “すがすがしい裸の

「ダムにて」:          “の水かさ”

の川”

“いのちがけでするために”

“あなたの

“自然に育てられた

「川の祭」:              “を呼びおこせ”

“はげしいを呼びおこし”

を呼びおこせ”

 

これを見ると、“愛する”という動詞で使われているのは1回、他の8回は名詞の“愛”である。特徴的なことは、およそ“Love”とは関係なさそうなところに突然“愛”が出てくる。「川の祭」がそうだ。どうも、いわゆる“愛し愛され”の“愛”とは別種類の“愛”のようだ。Dato sureば、「筑後川」の“愛”はどんなものなのか。それを探そうと「筑後川」の詩をよくよく読んでみたら、終曲「河口」の最後の方に、その答らしきものを見付けた。

 

“筑後平野の百万の生活の幸を

祈りながら川は下る”

 

川は筑後平野の人々の生活の幸を祈りながら下るという。それはまさに“川の愛”ではないか。言ってみれば博愛。恋人のような求める愛ではなく、母親のような与える愛。これこそが合唱組曲「筑後川」を貫くテーマなのではないか、と私は思う。

 

それを検証するために、“川の愛”の観点から組曲を構成する各曲の詩を眺めてみたい。

 

「みなかみ」

いまうまれたばかりの川は“すがすがしい裸の愛”を持って未知の国々への旅行を始める。ここで、“すがすがしい裸の愛”と歌うことで、川はその誕生の瞬間から“愛”を持っていることが印象付けられる。

 

「ダムにて」

ここでは“愛”が5回登場することに加えて、詩の形が他の曲と違って、呼び掛けとそれへの応答を含むややこしい構造になっているので、詳しく見る必要がありそうだ。

A

いそいそと瀬を走り

青葉をくぐり若葉をくぐり

もだえてみぎに左にうねり

愛の水かさがふくらんだところで

非情のダムにせきとめられる。

B

川よ

愛の川よ

もっと深さをもつように。

もっと重さをもつように。

もっと冷静であるように。

 

C
〈男声〉

不屈の決意をした青年です

いのちがけで愛するために。

見よ 水面に映したくれないの雲。

 

D
あなたを信じます。〈女声〉

あなたの愛を

ごらん 魚たちの鰓呼吸のおだやかさ。

E

川は

大きな川は

かがやく活路をさがしだす。

自然に育てられた愛が

筑後平野の

百万の生活のなかへ

歓喜の声をあげて走ってゆく。

 

AとEは詩人の見た川の動きの叙述であるのに対し、B、C、Dの部分は呼びかけと応答のようであり、異色である。

Bは、“川よ”と呼びかけているので、川への呼びかけであることは分るが、呼びかけ主が誰かは分らない。“もっと深さをもつように”と言っているのは、先生が生徒を諭してるようでもあり、父親が子供に教えているようでもある。“もっと深さを”、“もっと重さを”といっているのは、もっと深い愛を、もっと重い愛を持ちなさい、と諭しているように思える。“もっと冷静であるように”というのは、暴れ川で名高い筑後川に対し、あまり暴れるなよ、と諭しているのであろう。これが誰の諭しであるかは、CDを明らかにした上で、もう一度考えることにする。

Cは、Bの諭しを受けてのその応答であろう。したがって、これを言っているのは川で、“(私は)不屈の決意をした青年です”と言っているのであろう。もっと深い愛を、もっと重い愛を持ちなさい、と諭されたことに対し、命がけで愛しますとの不屈の決意を表明している。それは、流域の人々の生活の幸を祈ることの、必死の誓いなのだろう。

Dは分り難い。女声で“あなたを信じます”と歌っているが、“あなた”は誰なのか、これを言っている当人は誰なのか、が分り難い。“あなたの愛”と言うのは、常識的には“あなたの私への愛”と思いたくなるが、そうすると、あなたは誰?、私は誰?、がますます分からなくなってしまう。ひとつずつ解きほぐしていこう。“あなた”というのは、直前に書かれているCの発言者、つまり川であろう。“あなたの愛”とは、“あなたが持っている愛”、つまりCで“いのちがけで愛する”と言った“川の愛”、すなわち、流域の人々の生活の幸を祈るということであろう。“あなたの愛は本物だと信じますから、頑張りなさい”と言って、母親的に川を励ましている、と私は受け取りたい。

そこで、いよいよBとDの主体は誰かを考えてみたい。BとDでは、川を諭したり、励ましたりしている。私はそれは“自然”だと思う。なぜなら、Eに“自然に育てられた愛が”と書いている。つまり、川を教え、育てるのは“自然”である、と言っているものと理解したい。この詩の作者の詩人は、ダムを単なる貯水場と考えるのではなく、川を育てる、言ってみれば学校のようなところと感じているように思う。そこでは、あるときはBのように父親的に川のあるべき姿を教え、ある時はDのように母親的に川を励ます。そうやって、川は誕生時には“裸の愛”であったものが、“自然に育てられた愛”を持って、“筑後平野の百万の生活のなかへ、歓喜の声をあげて走ってゆく”ことになる。

 

「銀の魚」

ここには“”の言葉は登場しないが、“川の愛”が筑後平野の人々にもたらす幸の一つの事例として“銀の魚”つまりエツのことを歌っているものと考える。

 

「川の祭」

1番では“祭よ 川を呼び起こせ”と歌い、2番では“祭よ 愛を呼び起こせ”と歌って、川と愛が対で扱われている。このことからも筑後川を“愛の川”として本作品のテーマとする作者の考えが読み取れる。本来、祭というのは、豊穣への感謝・祈りであり、日本の民間信仰では、「そこに宿る魂や命が、荒ぶる神にならぬよう」にと祈ることである、という(Wikipediaより)。それは、まさに前記した“川の愛”を呼び起こすことに他なるまい。一説によれば、川の祭は久留米市(作詞者・丸山豊氏の出身地)の水天宮の祭で、花火大会が有名であるとのことである。水天宮には、また、河童伝説が伝わっており、河童は同市のマスコットキャラクターになっているとか。そんなところから、祭と花火と河童が結びついたのであろう。祭は筑後平野の人々の大きな楽しみであろうから、まさに“生活の幸”であり、これも“川の愛”が筑後平野の人々にもたらす幸の一つの事例としているのではないだろうか。

 

「河口」

“水底のかわいい魚たち”や“岸辺のおどけた虫たち”や“中州のかれんな小鳥たち”に川の平安を見届け、“紅の櫨の葉”や“楠の木陰”や“白い工場の群”に川のもたらした幸を感じながら、筑後川は“筑後平野の百万の生活の幸を祈りながら”の川の旅を終える。“愛の川”の完結である。

 

以上、“愛”の観点から合唱組曲「筑後川」を構成する各曲を眺めてみた。今、確信を持って言える。

“愛”が「筑後川」のテーマであり、それは“筑後平野の百万の生活の幸を祈る”ことである、と。

 

 

〈おわりに〉

練習時に感じた“この曲には“愛”が多く歌われている”ということから、“愛”が「筑後川」のテーマではないか、ということを考察した。であるならば、「筑後川」を歌う我々は、“川の愛”を聞く人に伝えることが、「筑後川」を歌うということではないだろうか。しかし、残念ながら、あひる会にはそれはかなわない。何故なら、あひる会では歌詞についての議論は全くしていないから、歌う人に“愛”の認識は無いからである。

 

言うまでもなく、歌は言葉と音楽が結合した芸術である。言い換えれば、歌を歌うことには言葉と音楽の2つの楽しみがある、ということである。しかし、あひる会では、昔から詩を検討するということをやってこなかった。われわれは歌う楽しみの半分を捨てているのではないだろうか。これでいいのだろうか。

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第56回定期演奏会は、無事終了いたしました。

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